大判例

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名古屋地方裁判所 昭和25年(ヨ)238号 決定

申請人 全日本自動車産業労働組合トヨタコロモ分会

右代表者 執行委員長

被申請人 トヨタ自動車工業株式会社

一、主  文

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

二、理  由

本件仮処分申請の趣旨は「申請人分会と被申請人会社との間に昭和二十四年十二月二十三日締結にかかる別紙基本協約書及び同月二十四日締結にかかる別紙覚書につき、被申請人会社は申請人分会の要求に応じ仮にこれに署名(自署)せよ。若し被申請人会社がこれに応じない場合には、右署名を命ずる本案判決確定に至るまで被申請人会社は別紙基本協約書及び覚書の趣旨に違反してはならない」というのであり、その申請の理由を要約すれば次のとおりである。

申請人分会と被申請人会社との間に昭和二十四年十二月二十三日別紙記載のような基本協約書が又同月二十四日別紙掲記のごとき覚書がそれぞれ締結され、当事者双方の代表者がこれに記名捺印した。これらの基本協約書及び覚書が締結されるに至つた根本的理由を述べれば、当時各地に企業整備のための人員整理が頻々として行われたため、申請人分会はこの一年間だけはどんな犠牲を払つてでも人員整理を免れたい。如何なる犠牲を払うも首になるよりはましだという気持から右協定を締結した。しかるに被申請人会社は右各協定締結後三ケ月を出でずして何ら特段の事情の変更なきに拘らず右協定の趣旨を無視し人員整理を強行しようとしたので、申請人分会はこれを阻去するため名古屋地方裁判所に対し右人員整理の実施禁止の仮処分命令を申請した。

ところが同裁判所においては不当にも新労働組合法第十四条にいう労働協約の署名とは自署に限られ記名捺印を含まぬとの見解のもとに、前記基本協約書及び覚書は労働協約書として効力を有しない旨判定し右仮処分申請を却下した。そもそも本件基本協約及び覚書は一ケ月以上に亘りもみにもんだ揚句締結された極めて慎重な討議の結論であつて、その署名の点についても当事者双方記名捺印をもつて法律上十分なりとの解釈の下にその自署の手続を省略したのである。それ故右各協定書が当事者双方の自署を欠くの理由をもつて労働協約として無効なりと判定されたとしても、労資当事者が右協定締結の事実を争わず且つ当事者により今日まで有効のものとして遵守されて来た事実を考えれば、右は労働協約として完全に成立し唯その効力発生要件を欠くに止まるのであり、これに当事者の自署さえ加われば即時に有効な労働協約に転化し得るものである。

しかして前述のように、被申請人会社自身右各協定書に記名捺印さえすれば法律上有効な労働協約となるとの見解のもとに自署しなかつたのであるから、被申請人会社は申請人分会に対し右各協定書を労働協約として有効なものたらしめる為めこれに自署をなすべき義務あることは勿論である。よつて申請人分会は被申請人会社に対し本件基本協約書及び覚書に自署を求めるため本訴を提起すべく準備中であるが、被申請人会社は現在多数の会社従業員(大部分は申請人分会の組合員)に対し企業整備のための解雇通告を発し一方的に不当な人員整理の実施を強行しようとしている。そこで申請人分会としては右本案判決確定を待つだけの時間的余裕がないから、とりあえず被申請人会社に対し右各協定書に仮に署名(自署)をなすべき旨の仮処分を求め、又被申請人会社がこれに応じない場合には右本案判決確定に至るまで右各協定書が自署なきまま有効な協約として被申請人会社をき束する旨の仮処分の発布を求めるため本申請に及んだのである。

よつてまず本件仮処分申請につき申請人分会にその主張のような保全の必要があるか否かの点を考察する。

本件仮処分申請は昭和二十五年六月九日当裁判所に対しなされたことは本件記録上明白であるが、その後被申請人会社提出にかかる疏明資料をそう合すると、申請人分会と被申請人会社との間には右仮処分申請の直後なる同月十日「本年四月七日以来の申請人分会及び被申請人会社間の会社再建に関する紛争を解決するため、次の事項を相互に確認した上当事者双方誠意をもつてこれを実施する」旨前文を附した覚書が取り交され、過去数ケ月間にわたり分会及び会社間に展開された人員整理をめぐる労働争議が一応の妥結点に到達したこと、次いで同年七月一日申請人分会と被申請人会社との間に有効期間を向う六ケ月間とする暫定基本協約が締結され、右暫定基本協約の内容は本件基本協約と殆ど同一であつて(従来分会の同意又は承認を要するとあつた事項を分会と協議すると改めた点は多少重要な変更であるが)、従前分会と会社との間に存した本件基本協約の効力に関する紛争も一応解決を見たことを認めるに充分である。

したがつて、以上のような新覚書及び暫定基本協約が締結された今日、いまなお本件覚書及び基本協約書について被申請人会社の自署を求め、又は右自署ありたると同一の効力を附与して被申請人会社の遵守を求める如き仮処分命令を申請することは、少くともその緊急性を欠き、保全の必要を具備しないものと言わねばならない。

右のような訳で、本件仮処分申請はいずれもその保全の理由が認められず失当であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し主文のように決定した次第である。

(裁判官 山口正夫 奧村義雄 夏目仲次)

別紙<省略>

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